その“問題”、本当に問題?それとも課題?

〜後継者が知っておきたい「問題」と「課題」のちがい〜

経営の現場では、「問題を解決しよう」「この課題に取り組もう」といった言葉をよく耳にします。
しかし、実際には“問題”と“課題”の意味が曖昧なまま議論が進み、認識のズレが生まれてしまうことも少なくありません。
たとえば「売上が伸びない」。これは“問題”でしょうか? それとも“課題”でしょうか?
答えは、どう捉えるかによって変わってきます。

問題とは「すでに起きてしまっている望ましくない現象や不具合」のことです。
クレームが多発している、納期が守れない、赤字が拡大している——これらは典型的な「問題」です。
問題は原因を探れば解決策にたどり着けることが多く、比較的“答えがある”のが特徴です。
つまり、ロジカルに分析し、対策を打てば解決できる領域だといえます。

一方、課題は「あるべき姿に近づくために、これから取り組むべきテーマ」のこと。
たとえば、若手の定着率を高めたい、新しい市場に挑戦したい、経営理念を再構築したい。
これらには唯一の正解はありません。状況や選択によって解は変わり、自ら答えをつくり出す必要があります。
課題解決は、まさに“答えがない世界への挑戦”なのです。

注意点として、ロジカルシンキングの文脈では「目標と現状のギャップを問題と定義する」ことがあります。
英語の Problem が「課題」「改善点」まで含む広い意味を持つため、この考え方自体は正しいとも言えます。
しかし日本語の「問題」には「悪いこと」「トラブル」といった強いネガティブな響きがあります。
たとえば「前年比120%を目標にしていたが110%だった」という状況を「問題」と呼ぶと、現場は萎縮してしまいかねません。
実際にはこれは「課題」と捉える方が建設的です。
「どうすればさらに伸ばせるか?」という前向きな議論へとつながります。

後継者には、この「問題」と「課題」を見極める力が特に重要です。
なぜなら事業承継のプロセスそのものが、二段階で進むからです。

まず、承継直後には、前経営で積み残された不具合やトラブルが表面化します。
この時期は「原因を突き止め、修復する」問題解決力が求められます。

そして基盤が安定したあとに、ようやく「自分の経営テーマ」と向き合う時期が訪れます。
ビジョンを描き、戦略を立て、未来へ挑戦する——ここで必要なのが課題解決力です。

「これは問題か? 課題か?」「今はどちらを優先すべきか?」。
そう自問しながら言葉を丁寧に使うだけで、会議や議論はずっと整理され、チームも前向きに動けます。

経営とは、問題を正し、課題に挑む旅路です。

その違いを見極め、順序を理解し、言葉を正しく使い分けることが、後継者としての大きな一歩になるはずです。

後継者の学校 代表 大川原

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